『扶桑武侠傳』のサンプルシナリオ「勿忘草」は、ちょっと、難しい所がありますよね。わたしも初めてやった時には手酷く失敗しました。ですが、その後もこのシナリオのGMをする機会があって、その時には綺麗な物語になりました。プレイヤーにも評判がよかった。
そう、「勿忘草」は、“難しいシナリオ”かもしれませんが、“不可能なシナリオ”ではありません。経験によって、あるいはちょっとしたコツによって、成功させることができます。そして、成功さえすればこのゲームの楽しさに病み付きになるでしょう。まあこれは言い過ぎかもしれませんが、GMが「勿忘草」を成功させる助けに少しでもなればと思ってこの記事を書きます。「勿忘草」をプレイしないまでも、『扶桑武侠傳』のGMをするならば読んで損は無いと思います。
注意!
この記事は『扶桑武侠傳』サンプルシナリオ「勿忘草」のネタバレを多分に含んでいます。
読む前に、「自分は読むべきだろうか?」と心に問い直してください。
セッション自体の前準備は攻略! セッション準備に譲るとして、ここではシナリオ「勿忘草」の注意点を述べます。
まず、セッション中、このシナリオではGMマスタリング・シート(p.152〜p.153)を見ながらやるのではなく、シナリオ本編(p.148〜p.151)を手元において進めてください。但し、「脇役」や「外道」、「賊徒」のデータと口癖は重要ですので、やはりこれも置いておきましょう。勿論コピーしましょうね、ルールブックはセッション中、別に参照するでしょうから。
また、システムの性質上、漢字の固有名詞を多く使いますが、幾らどんな字を使っているかを説明しても、プレイヤーには伝わりません。予め「風露丹」「成雪草」などの名前は紙に筆ペンで書いておき(筆でも構いません)、適宜プレイヤーに示すようにしましょう。
それから、これは重要なことなのですが、下記を参考にGMはある程度エンディングの見通しを持ってセッションに臨んでください。ご都合主義的な物でも非情な物でも構いません。
第一幕には、さほど難しい所はありません。シナリオの指示に従って進めていきましょう。以下に三点だけ、留意点を並べます。いずれも簡単な物です。
第一に p.148 や p.149 の囲みの中の情景描写は、多少くどいと思っても読み上げてください。GMをしていると気付かないかもしれませんが、意外と印象に残る描写がなされていますし、プレイヤーが[花鳥風月]をする心理的な敷居を下げる効果もあります。
2.「成望寧、登場」で中黒(・)で箇条書きにされている情報は、忘れずに全て伝えてください。
やはり「成望寧、登場」では、逆に風露丹が偽物であることは愚か、飲んだ一刻の後に死をもたらすことすら伝えてはなりません。これは獅子王丸の首輪の中にあり、天蒼派や凶門派の武侠と言えど、直接見ないことにはそれが毒であることは分かりません。
この幕でも、囲みの中はそのまま読み上げてください。
第二幕では、「第二幕を開始してXX分したら〜」と書かれていますが、それほど気にすることはありません。プレイヤーのペースに合わせて、ダレないように自由に進めていいでしょう。特に最初の「青い竹林の死闘」までは、プレイヤーが慣れていないせいで20分も掛からないのではないでしょうか。
PCはシナリオに書いていない様々な行動を取りたがるかもしれません。事実、わたしのGMしたセッションでは「PCの一人が変装して成雪草になりすまし、成雪草はすぐにそれとは分からない格好に変装させたい。その為の道具を買いに行きたい」という行動を宣言しました。こういった場合、GMは慌てる必要はありません。そんな時の為の[陰陽を占う]と[易占判定](いずれも p.132)です。プレイヤーのテンションが高いようなら[易占判定]でゆっくりと武侠の旅路、そして成雪草との交流を描くといいでしょう。話を先に進めたがるプレイヤー相手ならば[陰陽を占う]であっさり済ませることもできます。
p.139 の欄外「『賊徒』とは」を見てください。「賊徒」はシナリオの便利な「やられ役」や「舞台の書き割り」ではありません。
とあります。この部分に従って、例えば「死んでもあの方の秘密など教えられるものか!」「ふっ、絶無縁様のお役に立って死ぬなら……本望」など、彼等にも“想い”があると分かるロールプレイをしてください(ルール上は、[想いを溜める]ことはできませんが)。
3.「越すに越せない泥の川」の絶無縁との戦闘には注意が必要です。
まず、絶無縁が登場した時、その口癖(キャラクターシート参照)「俺は貴様らを〜」を叫びましょう。例え「外道」と言えども、(ルールの話は別にしても)“生き様”を持っていることをプレイヤーに印象付けてください。
[武侠間合い]は複数用意しましょう。「左手組」の[賊徒人数]は20人です。即ち[武侠間合い]に入るぎりぎりなのです(p.122 参照)。PC1〜2人に「左手組」を1集団ぶつけましょう。このゲームでは[武侠間合い]を複数用意するのが、GMのちょっとしたテクニックです。大丈夫、武侠の一人がやられそうになっても、他の武侠が[あいつはきっとやって来る!](p.130)で助けに入ってくれます。
そして、一番注意すべきは「絶無縁と勿忘草、獅子王丸を同じ[武侠間合い]に入れない」ことです。何故なら、絶無縁は複数の対象に攻撃を仕掛けられ、その場合獅子王丸を巻き込まないことは考えられません(獅子王丸が風露丹を持っていることを思い出してください!)。また、成雪草を巻き込まない可能性がありますが、その場合、プレイヤーに成雪草を怪しむ動機を与えてしまいます。その辺を察してくれるプレイヤーなら構いませんが、戦闘後にしつこく成雪草を問い詰めるプレイヤー相手ならば、元からその可能性を排しておきたいものです。攻撃に巻き込んだら巻き込んだで、絶無縁の[生き様]が徹底されていないことになってしまいます。この二点から、絶無縁は別の武侠と一対一で戦わせるのがいいでしょう。もっとも、不自然になるくらいならば同じ[武侠間合い]に入れてしまうのも止む無しですが。
(サンプルキャラクターの剣聖派剣侠のような)「賊徒」に特に有効な[奥義]を持つ武侠には、「左手組」をぶつけるといいと思います。
いよいよこのシナリオ最大の難所、第三幕です。取り敢えず、前幕の4.「満開の春想梅の下で」から、各キャラクターの位置と動きを紙に書くなど目に見える形でプレイヤーに提示しておくことをお勧めします。
この幕で困る点はおよそ次の五点に絞れるでしょう。
これはよくありません。前述の通り紙に書くなどして位置関係と動き、名前をはっきりさせましょう。
わたしは次の順に、ゆっくり状況を描写・説明していきました。ポイントは多少過剰と思えるくらいに説明することです。
「……獅子王丸、なぜ、ここに来てしまったのだ」を呟く。そして、勿忘草とPCに「成望寧の手先め、成雪草は渡さん!」などと叫ぶ。
「お爺様に伝えて。白さんが死んだら、私も死にます、と」を語り掛ける。
5.と6.は戦闘に入ってから、成雪草に喋らせてもいいかもしれません。
GMの手札、及び“想い”に強いカード([奥義]《金毒 白蛇功》に使える「月(ダイア)」でしょう)が揃っていても、せめて1ターンは、勿忘草が全力で攻撃するのを避けましょう。プレイヤーはまだ自分がどうするか、態度を決め兼ねています。
それ以降は、GMがどういう物語を考えているか、プレイヤーがどういう物語を望んでいるだろうかを勘案して、白一刀を殺すかどうかを決めてください。「シナリオの設計図」(p.153)の「解決とエピローグ」を見ると、白一刀と成雪草は救われるのが一応の“正解”となっているようです。どちらでも構わないと思います。
ちなみに、わたしは2ターン目に《白蛇功》で殺そうとしましたが、[活劇段階]が足りずPCによってダメージを受けてしまったため、殺せませんでした(ダメージを受けると[活劇]は「無効」になってしまいます。『扶桑武侠傳』正誤表参照)。その後のターンで白一刀の【命力】を0にすることには成功しましたが、天蒼派のPCの活躍によって片腕を奪うに留まりました。
これ自体はGMとプレイヤーの(暗に明にの)相談の下で決めるべきことですが、少なくともそれが毒と気付くチャンスはPCに与えるべきでしょう。
具体的なタイミングは、勿忘草や(勿忘草が倒れた場合など)PCが首輪から風露丹を取り出した時です。〈薬草学〉(p.112)や〈天蒼医術〉(p.093)、拡大解釈を認める場合には〈病気の知識〉(p.112)や〈毒看破〉(p.105)で高い[活劇段階](わたしの場合、[二段階活劇])を出したPCは、それが毒であると、更に高ければ(例えば[四段階活劇]。いきなり「〈薬草学〉で[活劇判定]して」と言えば、プレイヤーは訝って高い[活劇段階]を出すものです)「目が見えることなど無い」と気付けるようにするといいでしょう。
シナリオ本編にも「シナリオの設計図」にも、勿忘草が死ぬべきか生きるべきか、読み取れる記述は見当たりません。GMとプレイヤーで、好みの、あるいは納得できる物語を探ってみてください。
わたしは勿忘草が生きるのも死ぬのも、どちらも経験したことがあります。生き残った場合では、天蒼派のPCと一緒に、目を見えるようにする方法(本物の風露丹など)を探す旅に出ました。
再び「シナリオの設計図」を見てください。——はたして、勿忘草の瞳には春草梅は映っているのだろうか。
と書かれています。恐らくここでも、彼女が春草梅を見るのが“正解”なのでしょう。わたしは勿忘草が好きなので、是非見せてやってほしいと思います。
さて、その方法ですが、わたしが思い付くのはこれくらいです。
これ以外にも、プレイヤーが何か思い付いて提案してきたら、GMは柔軟な態度でそれを受け入れてください。自信無さ気に呟いた言葉を無理に拾うくらいでもいいでしょう。プレイヤーとGMが一緒に演出を、物語を考えることで、より楽しいセッションができると思います。
あくまで私見ですが、シナリオ中に“正解”に至る方法が書かれていない上、[奥義]などのデータを見ても果たしてそれが為され得るか否かが判然としない場合、そこはGMとプレイヤーで可能性を追求していい所だと思っています。
これには二段階考えられます。最後に“悪役”を戦闘でやっつけて爽快に終わりたい場合と、そうまで言わなくても皆が幸福な結末を迎えられるようにしようという場合です。
前者では、勿忘草の哀しい“想い”、即ち「死を前に一度だけ、命を賭しても故郷の花を見たい」というのを演出せず、単に「成望寧に雇われた暗殺者」として扱うといいでしょう。
後者、即ち誰もが幸福になってほしいとプレイヤーが望む場合、そうでないと納得しない場合でも、心配には及びません。ここまで読んできたなら分かる筈、勿忘草も白一刀も成雪草も、全員が幸福になる結末は存在します。成望寧は忘れてください。あいつは外道です。幸せになる権利はありません。PCについては、その[消せない記憶]と[生き様]に大きく左右されるので、ここでは言及を控えます。絶無縁すら幸せになってほしいと願うプレイヤーがここで問題になる時には、既にそういったアプローチをしていて(一部は)シナリオ通りに進んでいないことでしょう。そのままアドリブで対処してください。大丈夫、貴方ならできます。
GMがちょっと陰のある話をやろうとして「そんなの武侠じゃない!」とプレイヤーに反発されそうな場合は、『決戦・紫禁城』という映画をプレイヤーと一緒に観ることをお勧めします。それでも駄目なら「これは武侠小説(映画)再現RPGじゃなくて、あくまで“扶桑という国に生きる独自の武侠”を演じるシステムなんだ」と説得することもできますが、この言い方は多分不和を招くので、もっといい言い方が見付からなければプレイヤーに妥協しておくのが良策でしょう。
終幕はシナリオには書かれていない部分なので、普段自分でシナリオを作る時のように、あるいはセッション本番でちょっと気を利かせたエンディングを演出する時のように、演出してください。
『扶桑武侠傳』の「勿忘草」がRPG初挑戦、GM初挑戦ということもあるかもしれません。その場合は
攻略とは関係の無いことをつらつらと。
以上の攻略では完璧ではないかもしれません。更なるアドバイスがあれば、こっそり s2(@s2_it)に教えてください。
第三幕の最後の段落に愛や希望といった[生き様]に振り回される憐れな人間たちを、遠く離れた安全な場所であざ笑う成望寧。
とあります。プレイヤーがキャラクターの[生き様]を充分に描き切れた場合には、セッション後などにこのことを教えてあげるのはどうでしょうか。より一層成望寧への憤りを覚えることと思います。
ところでわたしは、犬の獅子王丸を是非武侠として持ちキャラクターにしたいのですが、やっぱり駄目かなぁ。