! か者どもは、降りきるに、悲しみと愛残す

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めに

「ロール&ロール」Vol.18 のシナリオ「愚か者どもは、降りしきる雪に、悲しみと愛を残す」の攻略です。近年(2006年4月現在)見なくなったタイプのシナリオで、物語の多くをプレイヤーに頼っています。その分、各武侠の生き様が引き立つと言えるでしょう。

注意!
 この記事は『扶桑武侠傳』のシナリオ「愚か者どもは、降りしきる雪に、悲しみと愛を残す」のネタバレを多分に含んでいます。
 読む前に、「自分は読むべきだろうか?」と心に問い直してください。

  1. シナリオの狙い
  2. 吹雪の一夜
  3. 客桟「桃木楼」
  4. 村長「李博士」の戦術
  5. 第三幕「悲しみは笛の音のように」
  6. 余談

シナリの狙

 本当のところはシナリオ作成者にしか分かりませんが、ここではシナリオの構成の狙いを以下のように想定します。即ち、このシナリオは第一幕、第二幕で武侠の[功夫値]や【命力】、【内力】、[龍の札]、うまくすれば[生き様を貫く]回数などプレイヤー側のリソースを消費させ、宿敵との戦いに臨ませる、と。この観点での[上演的作法]を攻略したいと思います。

 これは、物語のモチーフや雰囲気、宿敵の人間的背景と、直接には関係無いことに注意してください。それらはシナリオやプレイヤーの演出に任せます。NPCがそれを意識して動く筈は無いし、宿敵と相対する時のリソースが武侠の立ち回りなどに影響を及ぼすとは言え。

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の一夜

「出発への扉」では、武侠は吹雪の中、火を焚く薪を採りに雪山へと出ます。後で、互いに対立する使命を帯びていることに気付く(と思われる)武侠達ですが、ここで仲間意識を高めたり借りを作り合うことで、対立が明らかになった時の心の葛藤を生み出すことができます。それによって手を引くにせよ、呵責を振り切って使命を全うするにせよ。

 私見ですが、実際、どちらの結果になっても面白い物語だと思います。

 このシナリオポイントで「暖を取らないと凍死する」と告げるには、大きく二つのやり方があります。シナリオに書いてあるルールを最初に全て説明する方法と、「薪を集める必要がある」とだけ伝えて、あとは武侠の行動と時間経過に応じて判定を要求する方法です。

 前者、最初に全てのルールを説明する場合、予め纏めて紙に書いておくといいでしょう。帰り道は往路ほどの時間を掛けなくていいと伝えるのを忘れずに。この場合、薪集めの計画を立てるのに時間が掛かることが予想されますが、三人が協力しなくてはならない、という危機感をストレートに伝えられます。プレイヤーが「どうしたって生き残れる筈が無い」という結論を下しそうな場合には、[あいつはきっとやって来る!]の使い方が鍵だと教えてあげましょう。

 他方、目的だけ教えて細かなことを言わない場合は次のようにするといいでしょう。まず「薪を拾って来て火を焚かないと凍死する」と告げ、林があったことも思い出させます。次にGMだけタイムテーブルを書いて時間を管理し、林に行った武侠、小屋に残った武侠がするべき判定を順に要求していきます。「失敗したら凍死する」ということははっきり言うべきです。[活劇段階]が段々と上がっていくことに気付いたプレイヤーは、それからささやかな計画を立てることでしょうが、幸運に恵まれない限りは途中で力尽きると思います。やはり[あいつはきっとやって来る!]が使えると教えてください。

 ただし、この方法にはいい面もあります。GMが状況に応じて手を抜けることです。雪山の厳しさが伝わり(そして[功夫]を消費させ)、三人の武侠に何らかの繋がりが生まれ、そして女の悲鳴を聞かせさえすれば、細かな点には目を瞑っていいでしょう。途中でどうしても武侠が死ぬと思えば、本来五刻(10時間)耐えなければならないところを、四刻(8時間)に縮めたっていいのです。林での薪集めを容易にする手もあるでしょう。

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武侠が小屋から出いんだけど?

 わたしのプレイヤーは「地面に穴を掘ってその中に三人でいれば、寒さが凌げないだろうか」と考え実行しました。その他の理由によっても、山小屋から出ない可能性はあります。こうした場合問題なのは、実際それで寒さに耐えられるかどうかではなく、武侠が小夜と琴音に会えないことです。

 対策は、「小屋にいても小夜の悲鳴が聞こえることにする」「火を焚く以外の方法では死んでしまうことにする」辺りがいいでしょう。

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「桃木楼」

「宿敵の影」は特に注意することの無いシナリオポイントです。あえて言えば、客桟「桃木楼」にあると言う「桃木温泉」でしょうか。ここは武侠を油断させるのが一つの目的なので、実際に温泉に入ってもらってください。村人も入れて「裸の付き合い」をさせてもいいでしょう。こうした何も危険の無いイベントを起こしておけば、その直後は武侠と言えど油断するものです。

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村長「博士」戦術

 この辺りからは、武侠の残りリソースを確認して、適宜「手心」を加えてください。

「解決への扉」で村長「李博士」が登場する時は、5人の銀細工職人と同じ[武侠間合い]にすると武侠へのプレッシャーになります。客桟の主人「張角造」が特殊攻撃で[武侠間合い]全体に攻撃できたため、勘のいいプレイヤーはこの村長もそうではないかと思うでしょうから。

 そして、戦闘の最初の[場面]では特殊攻撃を使わず、[功夫を燃やす]を使って(できれば[生き様を貫く]も併せて)〈剣〉を振るってください。「どうせ外道など瞬殺される。[3場面]も生き残れば御の字」くらいのつもりで、どんどん本気で攻めていいでしょう。可能なら内力系武侠を標的にすると、[内力防御]をさせて【内力】を減らせます。

[2場面]めか[3場面]めに特殊攻撃を使って馬脚を現すと、もう李博士の仕事は終わりです。武侠の力の出し加減を見てこちらも[功夫値]を上手に消費し、なるべく長く生き残ってください。[功夫]などを温存するタイプの武侠ならば、[1場面]めで[功夫値]を3点全部消費してしまい、[2場面]めは[生き様を貫く]、そして[3場面]めから特殊攻撃を使うといいでしょう。逆に外道と言えど手加減をしない武侠相手ならば、[3場面]め以降は諦めて、最初の[場面]に[生き様を貫く]と3点の[功夫値]の双方を使ってください。

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幕「悲しみはのように」

 第三幕でのGMの仕事は、物語を進めるというよりは、各武侠が現在どのような立場でどのような主張を行っているかを、誰にでも分かるように纏めたり質問を挟むことでしょう。PCは全員が(宿敵の打倒といった)同じ目標を見ているとは限らないからです。それどころか、互いのPCを倒すのが目的にすら、なっているかも知れません。全員が協力するようであれば、仕事の殆どは無くなったと安心してよいでしょう。

 特に気を遣うべきは、ある武侠の言ったことを他の人が理解できているか、注意深く聞いておくことです。武侠ですからストレートでない言い方をすることもあります。それが意図通りに相手に受け取られないことはしょっちゅうです。しかしそれを許してしまうと、話がおかしくなってしまう上に、互いの誤解に気付いた瞬間疲れてしまうものです。誤解が生まれているようなら、できるだけ早くにそれを正してあげてください。

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の立ち居地

 各武侠が取る立ち居地は、その時になるまで分かりません。多くの要素が絡み合っています。ざっと思い付くだけで「[消せない記憶]と[生き様]、性格」「最初に受けた使命(侠派は師父の言葉)」「三人で協力して吹雪を耐え切ったという経験」「小夜と琴音への共感」「村人への罪悪感/怒りなど」「紅残雪への共感/哀れみ/無関心など」。以前のセッションでの体験やプレイヤーが武侠に肉付けした要素、東西朝への思い、プレイヤーの好みまでも反映します。更に、議論や戦闘を通じて各人の立ち居地が変化することすらあります。

 これに対してGMはどのような態度で臨むべきでしょうか。

 厳密でないにせよ「最後にはPC全員が敵対せずに、爽快感のある戦闘をして終わらせたい」と思う場合、「出発への扉」では雪山での一体感を強調し、また小夜に大いに共感させるといいでしょう。その共感で武侠達を結んでください。戦闘中にそれらを思い出させる描写をしてもいいでしょう。また、琴音は道中父に会いたいと強調し、そして紅残雪に会った途端その不甲斐無さに失望すれば、彼女に思い入れていた武侠の共感を得られます。そうではなく、紅残雪に「娘が生きていたとは言え、村に入った者を殺し続けてきた罪は拭えない。手を汚したまま娘の許になど帰れない」などと言って襲い掛からせるという手もあります。倒すことが紅残雪への唯一の救いだとするのです。特に戦闘にこだわらないのであれば、琴音と紅残雪の演技はあまり気を遣わなくて大丈夫です。多少の躊躇いを見せつつも最後には分かり合い、これから共に生きることにすればいいでしょう。

 厳密でないにせよ「PCが生き様に殉じて対立が起こるのは仕方が無い。むしろそれくらいの方がドラマが生きる」と思う場合は、「開幕」を強調してください。ただ、使命を反故にすると[生き様]に反してしまう、とまですると、対立が回避できないことが決まり切っているとプレイヤーに文句を言われるので気を付けましょう。また第二幕で、全員が成望寧の手下とは言え、村人にも生活があり、家族があり、無邪気な側面を持っていたり、何らかの理由で仕方無く成望寧に従っていると演出すると、武侠が葛藤してくれると思います。第三幕で必要に応じて琴音が父を庇うのも忘れてはなりません。琴音と親しくなった武侠が、紅残雪を殺す動機を持っていた場合などです。

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宿敵「紅残」の戦術

 紅残雪が戦う時の第一のポイントは、琴音の存在です。娘を愛する父としてどのような戦い方を見せるか、小夜を殺した(放っておいた)者として自分にどのような罰が相応しいか、今後娘と一緒に暮らしたいのか、一人で強く生きていってほしいのか、この辺りを予め決めておいて演じるといいでしょう。その場で武侠のキャラクターを巧く立てるのに役立つよう演じられるなら、それに越したことはありませんが。

 第二のポイントは、瑞覇から直接授かったという奥義《氷牙掌》です。天文会のPCの想いを全て聞いた後、それに対する答えと共にこの奥義を放ってください。娘と生きる為に全力で放ったり、PCを生かす為にあえて少ないカード枚数で使うことも考えられます。

[生き様を貫く]のは難しいでしょう。婚約者を殺してしまった[消せない記憶]は、娘の琴音を得ることで解消してしまっているようなものです。PCに恋人や妻を持つ武侠がいれば、その恋愛観と紅残雪の恋愛観を違えて、PCへの主張として[生き様を貫く]ことくらいはできるかも知れません。ただ、わざと見えない[生き様を貫く]道は残されています。場合によっては主演男優賞(と経験点)を獲得するほどの演技もできるかも知れません。紅残雪なら今後GMが使うのも難しくないでしょう。

 例えばこういうのはどうでしょう。まず琴音と一番親しい武侠を挑発して自分に攻撃させるよう仕向けます。次に行動宣言の順番が早い(【水(感覚)】が低い)のを利用して「この[場面]、紅残雪は(その武侠)に[生き様を貫く]よ」とだけ言います。そして、いざ解決の段階になると「紅残雪は『小夜と琴音が生きていたというなら救われた気がするよ。後はお前に任せる』と[生き様を貫く]。彼の[生き様]は小夜を死なせてしまった「哀切」だ。この生き様、見える?」と、わざと見えない[生き様を貫く]のです。演出過剰かも知れませんが。

[生き様]は別にしても、紅残雪を使ってPCといい勝負をするのはやや難しいと言えます。一見すると〈陰陽内功壁〉を始めとした[功夫]でPCの攻撃を耐え忍びつつ、向こうのカードが悪そうな時を狙って[奥義]を放つのが有効ですが、しかし、「機を窺う」のに必要な「後の方に行動宣言をする」のが、【水(感覚)】が低くてできないからです。雪山などでプレイヤーが吐き出した[龍の札]を使って、最初のうちから[奥義]など全力で攻撃していくのが得策かも知れません。いっそ一人で勝つことは諦めて、第二幕までにPCが対立するように煽っておいて、紅残雪はそのどれかの陣営に属するのがいいのではないでしょうか。ただし、これは勝とうとした場合の話であり、戦闘を回避したり巧く負けることも常に念頭において上演(ハンドリング)してください。

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 RPGのシナリオの多くは「ここで一旦PC同士の反目を見せるんだな」「ここでは協力しないといけないようだ」といった「雰囲気」があります。が、このシナリオはそれが常に一つでなく、そういった「雰囲気」はその場のGMとプレイヤーで決めるように出来ています。対立する理由もしない理由も同時に存在するので、シナリオを読んだだけではどんな結末になるか想像が付きません。どの選択でも等しく「物語的にOK」なルートなので、正に(PCでなく)プレイヤーが葛藤しつつ、セッションを進めることになります。このようなシナリオが存在するシステムというのは、昨今あまり見ませんので、『扶桑武侠傳』のファンであることを誇りに思っていいんじゃないのかな、と思ってしまいました。

 下のリンクはわたしがGMをした時の日記です。外道の戦術について書いていますので併せてご覧ください。

日記:えすにズムの坩堝:愚か者どもは、降りしきる雪に、悲しみと愛を残す

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